「さよなら」を言う私。

 この渚ドライブウェイには一度、男と来た事がある。
 ここで見る夕日に2人はすごく感動した。
 彼のシルバーのワゴンは夕日を浴びてキレイなオレンジに見えた。
 夕日が沈むまでずっと2人で海を見ていた。
 彼が「また来よう」と言った時、未来が約束されたんだと思って嬉しかった。
 また、こんなにキレイな景色を2人で共感しあえるんだと信じていた。
 信じていたのに・・・。

 今日、1人でここに来たのはすべてに「さよなら」を告げる為に。
 そして、新しい自分を探す旅の始まりを感じる為に。
 半年前に男は死んだ。
 男が生まれた4月だった。
 自分のマンションから飛び降り自殺した。
 私はあまり泣かなかった。
 男が死んだ1日前に友人も死んだ。
 彼女は死ぬ1週間前にこう言った。

 「彼と別れて欲しい」

 聞くと、彼に彼女を会わせた2ヶ月前に2人は恋に落ち、
 私の目を盗んで会っていたらしい。
 「こそこそ会うのはもう嫌なの、辛すぎる」
 彼女は友情なんてどうでもいいらしい。
 男にも話を聞くと、「別れる気はない、許して欲しい」と懇願された。
 ムシが良すぎる。絶対許せないに決まっている。
 だけど、急に男を嫌いになれる訳がない私は彼を許さないといけない。

 これから2人はまた元通りになるんだと思っていた、その翌日。
 彼女は自分の部屋で後頭部を何かで打たれて死んでいた。

 それは左利きの犯行らしく、彼女の周りで左利き、また合鍵を持っている、
 なんかの悪条件を満たしていた彼が疑われた。
 そして彼は次の日の夜、自分のマンションの部屋から飛び降りてしまった。

 遺言さえ残さずに彼は夜のアスファルトに最後の口づけをした。
 私は彼が彼女を殺していないのは分かっていた。
 彼があんなに愛した彼女を殺せる訳がない。

 彼は死ぬ前に私の名前を呼んだ。
 何度も呼んだ。
 彼の目は私を見ていたけど、それは優しくなんかなくて、
 ただの命乞いだった。
 私は「今更、何よ」と呟いた。
 3日前に後悔してるなんて謝っといて、
 どうして昨日は彼女の部屋に泊まったりなんかしたの?
 結局は彼女とも私とも上手くやりたいから謝っただけなんでしょ?
 ふざけないで!
 ナイフを持った私に彼は1roomからベランダに追い込まれ、
 そのまま転落してしまった。
 普段より飲み過ぎたビールのおかげかも知れない。
 午後8時、彼の叫び声は都会に呑まれてしまった。

 さようなら、1年、デスクを並べた女。
 男の趣味が同じ女となんて友情はありえないもんね。
 さようなら、2年も愛した男。
 約束したこのドライブウェイには1人で来たけど、
 約束を破ったのはこれでお互い様だ。
 さようなら、ここで見た夕日。
 こんな私を包んでくれてありがとう。
 でも、もう2度と来ない。
 さようなら、闇に葬った私の罪、達。



    

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