0006 酒と泪と男と女 (2003/11/25)
河島英五が亡くなってもう二年以上経ってしまった。ホモ・サピエンスの頃からファンだったし、一番私が多感だった頃に出逢った彼だけに思い入れは他のフォークシンガーとは。またひとつ違うモノがあったのだ。

中学の頃、悪だった私達の間でフォークは自分達のテーマソングみたいなトコロがあった。反体制や赤軍派などのイメージをまだ持ってたあの頃。大人達の目からフォークはやっぱり不良の象徴的な印象があり、それと自分達とをダブらせていたのかも知れない。私は直接には知らないんだが、先輩に一人フォークに詳しい人が居て、その彼が薦めてくれたのが河島英五とホモ・サピエンスの『酒と泪と男と女』と『てんびんばかり』のシングルレコードだった。この二つの唄を我々は口伝てで覚えて、ギターを弾ける者は弾いてよく一緒に歌うようになった。

中学の卒業式の日、式が終わり体育館から出て行く時、女子が泣いている中一人の仲間が式が終わった開放感からか?歌い出した。

 ♪忘れてしまいたいことやぁ〜〜〜

すると、共鳴するかのようにあちこちから不良仲間の声がハモりだした。

 ♪どうしよう〜もない〜〜〜淋しさに〜〜〜

やがて、それぞれが並んでいる列からはみ出して集まるようになり、みんなで大合唱となった。

 ♪飲んでぇ〜〜〜飲んでぇ〜〜〜飲まれてぇ〜〜〜飲んで〜〜〜

その光景はさながらミュージカルのワンシーンだったに違い無い。協調性の無い、常に先生達から罵声を浴びてた我々が、この唄で一つになった瞬間だった。どんなに良い先生達の説教にも動かなかった我々を、河島英五の言葉はいとも簡単に動かすコトが出来たのだ。そんな唄を作れる彼のコトを私は決して忘れはしないだろう。

笑福亭鶴瓶が河島英五の友人で、よくラジオ番組で彼のエピソードを話してくれたが、その中で私がとっても好きだった話があった。英五には年の離れた妹が居るそうで、その妹さんのまだ小学校の低学年の参観日での話である。コッソリと英五は教室の後ろのドアを開けて入ったんだそうだが、何せあの髪の長い風体の大男が教室に入って来たんだから子供達が静かにしている筈が無い。「誰や?誰の父兄や?」子供達は口々に互いの顔を見合わせたそうな。きっと妹さんも兄貴が注目されて嬉しかったんだろう。

「うちのお兄ちゃんや!」

みんなが「お前のお兄ちゃん怪獣みたいに大きいな、お前のお兄ちゃん怪獣か?」妹さんに質問する。すると妹さんも張り切って「そうや、うちのお兄ちゃん怪獣なんやで!」と答えた。教室内はドッと盛り上がり、子供達は英五に向かってそれぞれに「お兄ちゃん怪獣なん?なあ、怪獣やったらガォ〜!って吠えて。」とお願いしたんだそうだ。そこで英五が何もしないわけがない。みんなの期待に答えて、鉄人28号のように腕を上げて一声叫んだ。「ガォ〜!ガォ〜〜〜!」もう、教室内はヤンヤヤンヤの大喝采だったそうな。

そして数年後、妹さんが小学5年生になった時、またしても英五は妹さんの参観日にコッソリと教室に見にいったそうな。数年前と同様、教室内がザワザワ騒がしくなる…。「誰や?誰の父兄やねん?」みんな口々に顔を見合わせて騒ぎだした。英五は数年前を思い出して、その時を待っていたんだそうな。しかし、いつまで経っても妹は自分の兄だと名乗り出ない。それどころか気付いても無い様子…。英五はそっと妹の側に行き、妹さんの耳もとで小声で来たコトを伝えたんだそうな。

「お兄ちゃん、来たったで…。」

すると、妹さんはすごい形相で英五に振り返りこう叫んだそうな。

「何で…、何で、お兄ちゃん来たんヨ!」

その話を英五は鶴瓶にした後、「女の子は難しいわ…。」とこぼしていたらしい。私はこの話がすごく好きで、また、この話を聞いて河島英五という男が可愛くて可愛くて大好きになったのだった。

 ♪やぁ〜がてぇ〜男はぁ〜〜〜 静かにぃ〜眠るのぉ〜でしょうぉ〜〜〜

安らかにお眠りください。