0014 悲惨な戦い (2004/2/3)
中学の時、友達が先輩の部屋に行こう!と言うので、付いて行ったコトがあった。名前も知らない先輩で、でもいつも不良仲間と一緒にツルんでたので恐い先輩だという認識だけはあった。そんな先輩の部屋に私も行っても大丈夫なのだろうか?不安な気持ちで付いて行ったが先輩は留守で、取りあえず部屋に上がらせてもらって中で待とう…ってコトになった。その時、私を誘った友人が誰だったか忘れたが、そいつは先輩の部屋をまるで自分の部屋のようにいじくり回してたので私はヒヤヒヤして座っていた。

ベッドの下から何か黒くて大きなケースをズルズルと出して来て、その友人は私に「エエモン見せたるわ。」と言うのだった。しかし、見るだけで絶対に触ったらダメだと釘を刺された。触ったコトがバレたら先輩にボコボコにされるんだそうだ。そんな物騒なモン見たくも無いので私が断ると、それじゃココに来た意味が無くなる…と、訳の解らんコトを言い。とにかく近くで見るように言われ、シブシブ彼の横に私は並んだのだった。

留め金が一つ…また一つと外されてケースが開き、先輩の秘密が目の前に現れた。それはピッカピカに磨かれたフォークギターだった。フレットやボディーの周囲には貝細工が埋め込まれててキラキラ輝いている、そいつは素人目にもかなり高価なギターであるコトが解った。友人は息を呑んでギターを見つけめている私に振り返り「な〜〜〜、カッコイイやろ〜?」と一言言って、またギターを見つめた。

当時、不良の音楽と言えば絶対にロック…ってイメージがあったので、不良とおぼしき先輩がエレキではなく、アコギを宝物にしているなんて実に意外だった。タバコをくわえてキャロルやダウンタウン(松っちゃん&浜ちゃんではない!)を演奏ってると思ってたのに、女々しいイメージのフォークソングを弾いているだなんて信じられなかった。ふと、私の脳裏にさらなる疑問が沸いた!では、先輩はどんなフォークを聴いているのだろうか?まゆ毛を剃り、ソリコミを入れた先輩のコト…、まさかかぐや姫やNSPなんぞではあるまい。おそらく吉田拓郎や泉谷しげる辺りであって欲しい!そう願った。

友人がちゃんと直しておかな殴られるぞ…と言うのを、解った解ったとなだめて、私はステレオに移動して先輩のレコードを調べ始めた。「何だ何なんだ?先輩が聴いているフォークは〜?」レコードのしまってあるラックを開けて一枚のアルバムを取り出した。そこにはサングラスをかけた小太りの男がポーカーをしている姿が写っていた。名前を見ると『なぎら健壱』と書いてあった。…び、微妙〜である。どう自分がリアクションして良いのかも解らなくなった。

友人が私に先輩のコトを話しだした。先輩はロックやってるツレ(友達)に一緒にやろう!と誘われるんだが、先輩はガンとして自分はフォークなんだと主張し、決してロックはしないのだと教えてくれた。矢沢永吉よりも、宇崎竜童よりも、先輩にはこの小太りの男の方が良いらしい…。私はなぎら健壱のアルバムを見つめながら、なんとなく先輩がカッコ良く思えて来るのだった。

それから数年が経ち、その間いろんなフォーク好きの人間と出会い、なぎら健壱を好きな奴はかなりのフォーク通であるコトが解って来た。実際私もアルバムを聴いてみて彼の実力に納得出来た。彼がマルチタレントとして未だに前に出て来るでなく、影が薄くなるで無く、いつまでも不動の位置に存在しているのも、彼のいろんな面での実力のたまものでは無いかと感じる。『悲惨な戦い』しか知らなくて、コミックソングの人としか思って無かった私の認識が間違いであったコトにすぐに気が付いた。

普段、テレビに出てはエエ加減なコトを言ってトボけまくり、音楽やってる人間にしちゃ気取りが無く、なんか頼り無ぁ〜い感じでいるのに、これが一旦ギターを抱えて歌い出すと、ジ〜〜〜ッと耳を傾けてしまうくらい上手いのだ。そのカッコイイ裏切りとでも言えば良いのだろうか?そんなカッコ良さをなぎら健壱は持ってる。そして、そのなぎらに憧れてた先輩は、似合うロックじゃなくてフォークにこだわってて…。

私は双方に共通する『粋』を感じたんだわ。