009 ケーキ

和菓子とは違って、若い女性にアタックが強いのがケーキ屋さんだ。若い女性の好物の代名詞と言っても良いかも知れない。私も若い女性が居られるトコロへお邪魔する時はケーキ屋でお土産に買ってしまうくらいだからケーキは凄い。

ふゆき氏の事務所であるアイデア工房もそれだ。若い女性を3人も雇って仕事しているという、まったく羨ましい環境である。奥さんも美人だ。

働いておられる女性の中に赤松さんという、実に気さくで可愛らしい方が居られて、この方とお話するのがアイデア工房に行く最大の楽しみでもある。しかし御存じの方もおられると思うが、ふゆき氏はとても喋りだ。マシンガントークとでもいうのであろうか?次々に口から言語が飛び出し、私はこの間ただ頷くだけの人形に化す。民謡で言うならばただの間の手みたいなモンである。それでも構わずふゆき氏は民謡を歌い続ける。朝まで盆踊り状態である。しかし、ふゆきも人の子、やはり疲れと言うモノがやってくる。彼は休憩の為に「ジュースでも買ってきますわ。」と言い残し、近くのコンビニまで出かけるのだ。事務所内が嘘のように静かに感じる瞬間だ。事務所には私と仕事をしている赤松さんだけが残る。

ドラマの恋人同士だったら、「やっと、ふたりっきりになれましたネ。」と言うタイミングだ。いや、私からすれば若い女性と話せる機会はそうあったモンじゃないから、その台詞も決して遠くない。そのモノとも言えよう。五月蝿いオッサンから解放されただけでも有り難いのだから。

「お仕事、お忙しいですか?」そんな何気ない言葉で、赤松さんとの会話が始まり、やがてコロコロとした彼女の笑い声が事務所に木霊する。さっきまで、オッサンのダミ声で埋めつくされた空間に花が咲き乱れる。私はこのささやかな幸せに身も心も浄化されて行くのを感じるだ。

「ああ、来て良かった…。」

しかし、いつの世もそうだが幸せは長く続かない。10分もしないうちにダミ声親父がドアを開けて帰って来たのだった。

「いやぁ〜、今日は暑いなぁ〜。コーラ買ってきましたヨ。コーラ。ささ、飲んで下さいヨ。それで思い付いたんですが、例の案ですけどネ〜…。」

私は、せっかく咲いた花がひとつ、またひとつと萎んでいくのを感じながら、再び間の手親父に戻って行く我が身の不幸を呪うのであった。


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