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第六章 幕末から廃藩置県までの有田
(三)最初の万国博覧会
 有田焼が万国博覧会に出品されたのは一八六七年のパリ博覧会が初めてである。フランスから出品を勧誘された幕府は、各藩に伝達して参加を求めた。だが、幕府崩壊直前の各藩とも藩内政情が動揺している上に、鎖国観念が根強くて、応じたのは僅かに佐賀藩と薩摩藩だけだった。かねてから国産品の海外輸出の公然化を望んでいた佐賀藩は、これを絶好の機会として直ちに賛意を表したのである。

 慶応二年(一八六六)藩主は皿山代官に出品陶磁器を集めるよう命じた。よって代官石橋三右衛門は内外山の窯焼と商人に命じて、急に慌ただしく在庫の見本を上幸平の西光寺に陳列させた。本藩からは佐野栄寿左衛門常民らが出張して来て、一万両の製品を買い上げた。この莫大な量の陶磁器を僅か二ケ月の短期間に荷造して発送しなければならないので、西光寺付近の民家数軒を借りて荷造出荷の作業場にした。
正月どころではなく大変な慌ただしさだった。万里の波涛を越えて運ぶのだから二重の木箱に納めるという厳重さである。そして、他の出品物と共に長崎から海路横浜へ回漕、ここで英国商船イーストルクイン号に積替えて、南阿ケープタウン経由でマルセーユヘ運ばれた。パリには後発の佐野一行と前後して到着した。

 佐野等佐賀藩一行は、慶応三年(一八六七)三月八日、長崎出帆の英船ヒーロン号に乗船し、スエズを経由五月五日マルセーユ着。同七日パリに乗り込んでいる。なお、幕府使節団は将軍慶喜の代理として実弟の徳川昭武を団長とし、外国奉行向山隼人正以下随員など三十余名という大人数だった。

 佐賀の一行は、佐野団長の下に販売主任として佐賀の豪商烏犀円九代の野中元右衛門、副主任は深川長右衛門、秘書格として精錬方の藤山文一、通訳として長崎致遠館の助教授小出千之助の五名である。

先年、閑叟の隠密の命の下に、当時長崎にいた久富与平が斡旋したグラバー商会の帆船に便乗して秘に英国に渡り、数年間その地に留学していた石丸虎五郎と馬渡八郎の両名も、通訳としてパリに呼び寄せられた。

 当時フランスはナポレオン三世全盛の時であり国を挙げての催しだったので、会場の広さ十二万坪という未曽有の規模で豪華そのものであった。日本館では佐賀藩と幕府が同一場所に、薩摩藩は別場所になっていた。日本の茶店では桃割れ髪の美しい日本婦人がサービスに当たったので、爆発的な人気を呼んだ。

 佐賀藩の陳列店には漆工金蒔絵の鍋島家定紋の杏葉が、有田焼の絢爛たる錦絵を背景にして中央高々と金色に光り輝いていた。薩摩の総主任岩下位治右衛門は自分達の陳列席には日の丸の旗と島津氏定紋轡の藩旗とを交叉して掲げた。
佐賀にも勧めたので、佐賀も日の丸と杏葉紋の藩旗とを島津氏に倣って掲揚した。その後、幕府の全権徳川昭武から抗議があったが、既に討幕を決していた薩摩は開会するまで撤回ぜず、幕府を無視して通した。しかし、佐賀はこの抗議には柔軟に対処して、幕府との友好関係を維持したのである。

 そのためか、幕府の出品管理者である横浜の貿易商島田惣兵衛が佐賀には種々のアドバイスを与えてくれた。その発案で小皿に煎茶碗を載せてコーヒ碗、中皿に高湯呑を組み合わせモー二ングカップ、丸毛料に五寸皿を台にして台付スープボールになぞられたまではよかったが、上と下との絵柄が違うのもあって竹に木をつなぐ感があった。だが、それが却って妙だと大変な人気を呼んだ。又、大皿は額皿、大丼は洗面器、飯碗に水を満たしてフィンガーボール、徳利は花瓶だと説明した。

 特に珍妙だったのは赤絵美人絵の盃をバター入れだといって平然と済ましたことである。中でも最も人気を博したのは、細口徳利だった。余りに評判がよいので用途を尋ねた処、これに金具を取り付けてランプスタンドにすると言う。又、猿面鳥帽子姿の舌だし人形がナポレオン三世の皇后の目に留まって、ご下間の上、多数御買い上げの光栄に浴したと言う。このように有田焼が圧倒的な人気を集めた上、欧州の専門美術家達を瞠目驚嘆させたのは、高貴なペルシャ絨椴とも見まごうほどに精緻で端麗な藩窯の色鍋島であった。  欧州人の嗜好も用途も全く調査研究することなく、在庫品を盲滅法に買い上げてぶっつけた有田焼は意外にも好評だったため、佐賀藩利益の大方は有田焼の売上げによって得られたという。

 博覧会は六月三十日に閉会し、翌七月一日、アンデストリー宮殿で盛大な褒賞授与式が行われた。佐賀藩に対しては最高のグランプリ賞杯が、参加者にはネーム入りのメダルが授与された。しかし、パリ到着後間も無く客死した販売主任野中元右衛門が欠けている事は正に痛恨の極みであった。予想外の成功裡に使命を果たした佐野一行は帰途オランダに軍艦日進丸を発注し、意気揚々と帰国したのである。

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