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第十章 大正年代の有田
(二)陶器市と李参平碑
 第一次大戦の開始と共に有田も活況を呈し、産地の機運も高まり、そして、次のような新しい動きが見られた。一つは品評会々期中の蔵さらえであり、もう一つは李参平碑の落成であった。以下は「肥前陶磁史考」の記述より

 大正四年五月陶磁器品評会(五月一日より七日間)開催に際し、「有田之友」を発刊している深川大助は同人の中島浩気(肥前陶磁史考の著者)と徳見知敬(明治初年十二小区と称した有田郷の戸長徳見知愛の子)と計って、この際陶祝祭を執行することを協議し、同時に各陶器店に一斉蔵さらえを挙行させようとの議を提案した。知敬は大いに賛成したが、浩気は同意するのに難色があった。
それというのは、昔から相当の陶器商では、等外品や端物のようなのは嫁や子供達の小遣に充てられていて馴染の市外人(等外品や端物の陶磁器を売買する商人)に一括して売っていた。それを今更一々洗って店先に並べるなど同意しないだろうという。

 大助はこれに答え、決してそうではない。それは市売りがどんなに面白いか知らないからである。この市売りが早岐の茶市のように一斉に挙行されて例年の行事になれば、いろいろな工夫もあって、方法次第では意外に発展するかもしれないと主張した。

 浩気も単に自分の店の等外品や端物の販売程度なら試みてみるのもよかろうと漸く同意した。

時の町長久富三保助も賛同したので、六助が主催者になって当業者を勧誘すると共に、有田青年会が主となって協賛会を組織しこれが市の実行部隊となった。こうして全町の本通り筋は装飾され、各店の店先には思い思いに陳列された見切り品売りの陶器市が発足したのである。

 買上げ一円単位の福引券を発行し、購買品は協賛会員が無料で有田上下面駅に運搬した。駅長駅員も協力して顧客の乗り込みを助けるなど万全のサービスをした。後では臨時列車も発着するようになって、買物客で全町は一杯になり大正年代で売上十万円を突破するほどの盛祝を示した。

 又、来客の誘引策として、会期中に各種の催し物を劇場や社寺などで興行した。
即ち、義太夫大会、謡曲会、俳句会、短歌会、歌留多会、囲碁会、将棋会、古陶陳列会、書画骨董会、生花会、盆栽会、蓄音機会、筑前琵琶会、大弓会等、何れも近県の天狗達をして、我と思わん者は飛入り勝手と歓迎したのである。これは七十余年前のことである。そして、昭和十年には、陶器市二十周年を記念して功労者の慰霊祭を挙行して、久富三保助、徳見知敬、深川六助と青年会長として尽力した久保与平、井手虎治の英霊を祀ったのである。

 又、六助は知敬と浩気と計って大正六年に陶祖李参平の三百年祭を挙行すると共に、記念碑の建立を提議した。そして、深川等は常務委員として建碑の衝に当たり、深川栄左衛門を委員長に、大樽の林源吉を工務委員、同じく藤井寛蔵を会計委員とした。

その他協賛委員として辻勝蔵、松本庄之助、城島岩太郎、雪竹豊吉等が任じられた。

 そして旧藩主鍋島侯、多久男、蓮池の鍋島子、鹿島の鍋島子、武雄の鍋島男等の賛助を得て、李氏頌徳会を組織し、大隈重信侯を名誉総裁に推戴した。こうして巨額の寄付が集まったので、その偉功を永久に伝えるため、陶山社の後背蓮華石山に一大頌徳碑が建立された。大正六年十二月のことである。そして、今日まで五月には毎年陶祖祭が行なわれている。

 なお、碑面「陶祖李参平之碑」の書は侯爵鍋島直映の揮毫に成り、裏面の撰文は佐賀中学校長千住武次郎、書は沢井如水である。撰文の現代語訳は左の通り
 「我が陶祖李参平氏は朝鮮忠清道金江の人である。文禄元年、豊臣秀吉公征韓の役の時に鍋島軍の為に力を尽くすこと少なくなかったので、慶長元年藩祖直茂公が凱旋の時同行して日本に帰化させた上参謀長多久安順に世話をさせた。金江の人なので金ケ江の姓を名乗らせたのである。初め小城郡多久に住んで彼が習得し熟練している製陶を始めたが、良い原料が得られなかった。そこで、元和年間、松浦郡有田郷乱橋に来て陶業に従事し遂に泉山で磁石を発見した。それから白川に移住して初めて純白の磁器を製作したのである。実にこれが日本での磁器製造のはじまりである。それからはずっとその製法を受け継いで来て今日の盛況を見るようになったのである。このことを思えば、李氏は我が有田の陶祖というだけでなく日本窯業界の大恩人である。

そこで、陶磁器の業に従事してその恩恵に預かっている者は誰でもが李氏が遺した功績を尊敬しない者はいないのである。」

 有田町史商業編2の217頁の左の記述を以て本節の結びとする。
 「第一次世界大戦下の好景気の中で、陶器市が創設され、李参平の記念碑が建立されたことは、第二次世界戦争によって多くを矢ったにもかかわらず、有田の精神を久しく今日まで伝えることとなった。」

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