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表紙のことば
人びとを魅了したおもざし
今泉泰子 カット: 柴田コレクションから

写真: 色絵猫抱き人形
「色絵猫抱き人形」18世紀前期の古伊万里-今右衛門古陶磁美術館蔵-(横27.8cm・奥行き12cm・高さ22.7cm)
なにを想っているのでしょう─この古伊万里人形は。

松文様の着物に垣に菊をあしらった打掛のようなものを羽繊って猫を膝にのせ、くつろいだ姿、顔、指先、足のつくりにいたるまで自由闊達なへらさばきに無名陶工の息吹を。
衿や裾の鮮烈なもったりとした赤には濃みを施した女性の情熱と葛藤がにじみ出ているように思える。元禄、亨保の心意気あふれた作品だろう。粋な美しさは国内外の人びとを魅了したにちがいない。

この人形が生まれた有田の町の空間には空の深さ、清らかな水、白い磁石が息づいている。花風に景色はみるみる緑を増してくる。岩山が迫った家並はやきものを作るための道の曲がりや橋のつけ方が先祖の知恵で出来ている。自然信仰の名残だろうか、はたまた火を使う人の畏敬の念からか火の神を祀る人の心も大切にされている。

「火」「土」「水」と人間の創意と技術によって作られた、もの言わぬ数々の美しいやきもの─このやきものを作り続けてきた時間は私たちの中に生きているし共にある。さらに技術を超えたところにある魂の問いかけ、祈りにも似た窯の仕事のきびしさ、道端の一本の草に心を動かされて描いた一枚の皿が見る人、使う人に大切な沈黙の時間と心躍る暮らしの中の楽しみを与えることが出来たら、やきものを作る事に携わる人間にとってこの上ない喜びであり誇りであると思う。 時代は激変し、人びとの価値観、美意識も変わり、精神も弛緩していると言われる今日、この町の人びとに来る時代の新しい問いが重ねられ、それに応える努力が続けられるだろう。歴史と伝統の重圧に倒されることなく自由な精神を育み、誇りを持ち、男性も女性も自分の在り方、一人の人間としてどういう方向に向かって歩いているかを考えたいと思う。

山に囲まれた町は、一葉、一幹、一樹と紅葉、黄葉はするが、全山染まることはない。
(佐賀県教育委員)

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